【メタル入門②】ヘヴィメタルってどんな音楽?【メタルの特徴】

前回の記事でいろんなメタルアルバムをオススメしたが、それらを聴くといろんな楽曲があって「そもそもメタルとはなんだろう?」と疑問に思うだろう。
メタルという音楽は非常に多様な音楽性を有しているため、一概にこうとはなかなか言えない。
これが今からメタルを聴こうとする初心者に対して難しく感じる要因であるように思う。
今回はそういったメタル初心者に対して「そもそもメタルってどんな音楽」というものをわかってもらうため、自分なりに思うメタルの特徴を解説してみた。

*まだ①を読んでいないという方はこちら

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メタルはロックのジャンルのうちの一つ

「メタル」は聴いたことがなかったとしても、「ロック」を聴いたことがないという人は非常に少ないと思う。そうなると「『メタル』と『ロック』は何が違うのか?」という疑問が湧くと思う。

結論から言うと、「メタル」は「ロック」のサブジャンルの一つということになる。
別の言い方をすると、「ロック」という大きな枠組みの中に「メタル」という音楽が存在するということである。

上記の図を見て貰えばわかるが、今や「ロック」というのは「メタル」以上に様々な音楽性を内包している。
これでもとりあえず適当に思いついたジャンルをいくつか入れているだけなので、実際にはもっと多くの種類の「ロック」がある。
その「ロック」の多くの種類の中に「ヘヴィメタル」という音楽があるというわけである。
そのため、ロックで広く採用されているボーカル、エレキギター、エレキベース、ドラム、(必要に応じて)キーボードというスタイルで構成されていることが多い。

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音の特徴

ディストーション・サウンド

「ヘヴィメタル」の最大の特徴であり、ほぼほぼアイデンティティとなっている要素。
この「ディストーション・サウンド」、および「歪んだ音」とは何かというと、身もふたもない言葉で言えば「ギュイーン」とか「ジャーン」となっているサウンドのこと。


専門的な話をすると小難しくなってしまうから避けるが、もう少しだけ詳しくいうとスピーカーに入力できるレベルを超えたレベルを入力した時にできる音で、言い方を変えると「割れた音」である。

普通ならこういった音は聞きづらく感じるものだが、メタルを含めたロックの世界、もっというとエレキギターの世界となると話が変わる。
エレキギターでアンプから音を出す際にこの「割れた音」というのが「クールである」と受け止められ、エレキギターの世界では意図的にこの「割れた音」を作り出している。


ヘヴィメタルは「ディストーション」と呼ばれる、さらに過激に歪ませたサウンドを取り入れており、攻撃的な印象を強く与えている。

重たい音作り

「重たい音」というのは、音を歪ませるに止まらない。
これもギターやベースの話をするなら、音のチューニングを下げる=低い音で演奏できるようにするということも頻繁に行われている。
もちろんレギュラーチューニングを使っているバンドも数多くいるが、近年では音をさらに下げるため、7弦ギターや8弦ギターといった、より低い音を出せるようなギターを使用しているバンドも珍しくない。



ちなみにこのヘヴィな音はとある事故によって生み出されている。



今日では「ヘヴィメタルの祖」として認識されている「ブラック・サバス」のギタリスト、トニー・アイオミが板金工をしていた時代、誤って指の先端を切断してしまった。
彼は洗剤のプラスチック容器を溶かして作成したキャップをはめてそのハンデを克服したが、その際に演奏しやすいようにギターのテンションを極限まで下げ、結果音の輪郭のぼやけた、おどろおどろしいサウンドとなった。
このサウンドが後のメタルバンドの音作りに多大な影響を与えることとなる。




パワーコードを主体としたリフ

重い音というのは、音色そのものにも限らない。
ヘヴィメタルで使われるのは主に「パワーコード」と呼ばれるコードである。

これを1から解説すると話が大きく脱線してしまうので割愛するが、簡単に説明すると、音楽で使われるコード、日本名で「和音」と呼ばれる通り、様々な音で構成される。
その音の組み合わせによって、「明るい感じ」「暗い感じ」「お洒落な感じ」「切ない感じ」といった印象を与えることができる。
パワーコードは、コードを構成する音を極限まで削り、「明るい」とも「暗い」とも言えず、強いていうなら「無機質な感じ」の印象なコードである。

この「無機質な感じ」がメタル、ひいてはロックの世界では「力強い感じ」を与えるため、よく好まれて使用されている。



ちなみにもっとコードとか、他の音楽理論を知りたいと思った方はぜひ楽典を一度読むことをお勧めする。



使われるスケールはマイナー系が多い

これも音楽理論の話になるので、本気で勉強としようとするのなら上記の楽典を一回読んでみることをお勧めするが、これもちょっとだけ解説すると、「スケール」とは曲で使われる音の組み合わせである。

先ほど解説した「コード」は通常一度にジャーンと鳴らした際の音だが、当然音楽は時間経過とともに何回も音を奏でていく。
その際に適当な音をつないでいったら、それこそ音痴な楽曲となってしまうので、音から音へつないで行った時にきれいに聞こえる音の組み合わせを「スケール」と呼ぶ。

このスケールには(もっというと先ほどのコードにも)「メジャー」「マイナー」があり、メジャースケールを使うと曲全体が明るい感じ、マイナースケールを使うと曲全体が暗い感じとなる。

メタルはマイナースケールを採用することが多く、先ほど解説したパワーコードと相まって独特のヘヴィさを演出している。


他のジャンルで言えばクラシック音楽に近い

クラシック音楽といっても一概には言えないが、メタルはクラシック音楽との親和性が高いジャンルとして知られている。
その理由の一つが曲の構成である。

特にポップスでは顕著だが、よくヒットチャートに乗るような楽曲はAメロがあってBメロがあってサビがあって…というのが基本パターンである。
しかしメタルの場合は、明確に「これがサビ」というものがないことが多い。
曲中に繰り返し使われるフレーズ自体は存在するが、それがポップスとは異なり「どれがサビ?」と言われてもよく分からない。というか、サビの概念すらないのかもしれない。
ではどんなパターンかというとこれまた難しく、複雑で展開を見せる楽曲が数多い。曲によってはかなり荘厳な展開を見せることもある。それでいて所謂「お決まり」といったものもあるので、この辺がクラシックとメタルが似ていると言われる所以である。
ただし、これが他のポップス、ポップ・ロックに慣れ親しんだ人から「とっつきにくい」と思われる理由の一つである。

また先ほど解説した「スケール」も、クラシック音楽で使わるようなスケールを採用した楽曲やジャンルが数多い。

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演奏技術は高い

ヘヴィメタルは先にも述べたように、複雑な展開をする楽曲が多い。
それ故同じ曲でもテンポチェンジすることはさほど珍しくない。
またリズムも、通常よくある4/4拍子でない場合があり、それが曲の最中で変わることだってある。
さらにメタルの楽曲がそもそもテンポの速い楽曲が多いし、ギターに限ればメタルの代表格とも言える「速弾き」に加え、スウィープやエコノミーピッキング、タッピングなどの高度な演奏技術を求められる。
当然ギター以外の楽器陣にもその複雑なリズムやテンポをしっかりとキープしたり、ベースやドラムでもソロが求められる場合があるので、リズム隊と言えども(むしろリズム隊だからこそ)相応の技術が必要である。

ちなみに、そういうふうに高い技術が求められるものだから、普通に音大出身のメタルミュージシャンもいたりする。


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ボーカルがデスボイスとは限らない

楽器陣の話をしたので、今度はボーカルの話。
高度な技術が求められるのはボーカルといえども同じである。

ちなみにメタルのボーカルというと、大抵は所謂「デスボイス」を連想されると思うが、実はデスボイスを使用しているメタルのサブジャンルはそこまで多くない。

昔ながらのメタルのボーカルは、むしろ「ハイトーン」である、もっといえば歌える音域が広いと評価されていた。例えばジューダス・プリーストのロブ・ハルフォードは4オクターブ以上という圧倒的な音域を誇り、その他でもメタル界に多大な影響を及ぼしているので「メタル・ゴッド」の異名を持つ。またロニー・ジェイムス・ディオはその幅広い音域に加えて、フェイク以外で絶対に音を外さないということでも知られていて、既に亡くなってしばらく経つがいまだに多くの人々から親しまれている。

こういったハイトーンを出せないと評価されないかというと、一概にそうもいえない。
メタリカのジェームズ・ヘットフィールドは低中音域を中心としているが、曲によっては哀愁漂わせたり、ライブではデスボイスじみた歌い方をするなど、非常に表現力豊かである。
またレイジのピーヴィー・ワーグナーも、この手のジャンルには珍しいがなり声を活かした歌い方をしている。

上記を見ていただければ分かる通り、あくまでデスボイスというのはメタルにとって「数ある歌い方の一つ」にしかすぎない。



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歌詞の内容は千差万別

これもメタルを聴いたことがない人がよく思うことだと思うが、決してメタル=悪魔崇拝という内容ではない。
もちろんそういったバンドやジャンルもあるが、メタルの歌詞は一概こうとはいえず、非常に多様な内容となっている。

例えばアイアン・メイデンの代表曲「審判の日(原題: Hallowed Be Thy Name)」は死刑を待つ人の心境を歌った歌であるし、メタリカの代表曲「エンター・サンドマン」は眠気を誘う妖精の伝承に基づいている。

一方で、社会的な不平・不満を歌っているバンドもある。メガデスは音楽性の複雑さもさることながら、戦争や社会問題を題材にした歌詞の内容から「インテクレチュアル・スラッシュメタル(知的なスラッシュメタル)」と呼ばれる。
さらにメロディックスピードメタル(パワーメタル)に至ってはドラゴンだとか守護者だとか、伝承や架空の物語をベースとしてる傾向が多い。

このように、一概に「メタルの歌詞」といっても、ジャンルやバンドによって歌っている内容が色々あるため、メタル=これというものがないのが実情だ。

ただしいずれにしても、「甘い恋心」だとか、「両親や仲間に感謝」みたいなポップス御用達みたいな感じの歌詞はほとんど見られない傾向にある。
(失恋ソング、もしくは失恋を匂わせる楽曲はたまに見るが)



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内向的で賢い人が多い

これまたメタルを聴かない人からすると、「メタルを聴いていたり、演奏する人は暴力的だったり攻撃的な人が多い」というイメージを持っていることだろう。
確かに、素行の悪さや問題行動のエピソードを持っているメタル・ミュージシャンは見かけるし(有名どころでいえばメガデスのデイヴ・ムステインのメタリカ解雇騒動だとか、マイケル・シェンカーの二日酔いによるライブドタキャン、などなど…)、メタルのライブでは観客もヘドバンしたり、手を振って叫んだり、なんならモッシュやウォール・オブ・デスで体をぶつけ合ったり、会場を走り回ったりしている光景も珍しくない。

しかしながら、メタル=暴力的というのはあくまで一面しか見ていないものである。
先にも述べている通り、メタルという音楽は演奏しようとするなら、高度な技術を取得したり複雑な構成を覚えなければいけないので、かなりの練習量が求められる。また曲展開も複雑で、そういった楽曲を作曲しようとするなら音楽理論を高度に理解していなければならない。

また聴く側にとっても、複雑な曲を吟味したり理解しなければメタルの良さはわからないし、「誰々のソロはよかった」「誰々はテクニックはすごいけどリズムがイマイチ」なんて話はその曲なりアルバムなりをしっかりと聴き込まないと話ができない。

ただ外に出て暴れまわったり、迷惑かけるだけの人間にメタルは出来ないし、聴くことができないのである。

事実メタル・ミュージシャンのインタビューをみたり、メタラーと話て見ると、陽気でコミュニケーション能力に長けているような、所謂「陽キャ」的な人はそう多くはない。
最低限の社交はするが、馴れ合いが苦手で、知的好奇心旺盛で、自分の好きなものを大事にしている、そんな言葉を選ばずにいうと「オタク気質」な人が多い。
(私自身もそういう人間なのはもちろん否定しない)

メタルという音楽は、実はそれほど怖いばかりの音楽ではないのである。



ちなみに、この辺の話は下記の 中野 信子 氏 の「メタル脳」という本に詳しく書いてあるので、一度読んでみて欲しい。



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実際のところ、なんでもあり

ここまでメタルの音楽的特徴だとか、メタルを愛する人の特徴を語っておきながら、一言いっておかなければならないことがある。
これまで語ってきたことは、例外が非常に多いということである。

例えば「ディストーションの聴いたギター」なんてのも、別にギターにディストーションをかけなければメタルでないという決まりはない。
そもそもギターすら使っていないバンドすらある。
フィンランド出身の「アポカリプティカ」はチェロを主体として、ギターはおろかベースすらない(ドラムはいる)。
ドイツの「ヴァン・カント」に至っては楽器はドラムだけで、他はアカペラである。

またメタルは既に生まれて半世紀以上経っているわけで、その長い歴史でいろんなジャンルを取り込んできた。
例えばメタルのジャンルのなかでも主要な「スラッシュメタル」や「メタルコア」はハードコア・パンクの影響を受けている。
また2000年代前後にはヒップ・ホップやラップ・ミュージックを取り入れた「ニュー・メタル」というものが誕生している。
さらに我らが日本でも、アイドルとメタルの融合させた「カワイイメタル」というジャンルが生まれ(実際に英語版ウィキペディアにちゃんと「kawaii metal」として記事がある)、その先駆けとなったBABYMETALは全世界的なアーティストとなっている。

当然そういった新しいものが誕生すると、「○○はメタルじゃない」という意見が出てくるし、これはメタルに限った話でもない。
しかしメタラーは内向的で保守的な一方、いいと思ったものは柔軟に取り入れていく傾向にある。
そうでなければ、それこそBABYMETALなんてただのイロモノグループとして一発屋で終わってしまっていただろう。
また独特の仮面が特徴のスリップ・ノットもデビュー当時は「メタルじゃない」という意見が多かったが、今では数多くのメタル・アーティストが出演するフェスを自ら企画できるまでに影響力を持っている。
そういった背景があるため、メタルは非常に多くのサブジャンルが数多く発生しているわけである。

様式美を大切にしながら、時代に合わせて柔軟に変化していく様は、メタルという音楽が非常に有機的であると言える。


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終わりに

メタルという音楽がいかに奥が深く、またいかに特徴的な音楽であるかわかってもらえただろうか?
ここで語った内容も、メタルという音楽の一部分を切り取っているに過ぎない。
ぜひともメタルのアルバムを聴いて、その魅力を堪能して欲しい。



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